概要
エレベーターもエントランスのオートロック機能もない築25年のコンクリート造4階建マンション。目立ち始めた空室に対する施策として、隣地に所有する古い瓦葺きの風呂なしアパートを含んだ一体的な計画を行った。マンションとアパートのリノベーション、加えて計画する戸建住宅の新築、そしてそれらをつなぐ共用の中庭を計画した。マンション棟は段階的に改修を行い、合わせて屋上を充実した共用部となるようリノベーションを行った。画一的な大規模修繕の常識に捉われず、建物の外部空間や、隣地との関係性を積極的に含めることで新しい可能性を模索した。今後増加すると考えられる、築古物件の再投資と価値向上に一石を投じるような意欲的なプロジェクトとなった。
背景
築20年を過ぎたマンションは、一般的な大規模修繕に加えて、エレベーター、オートロックの設置など周辺物件に合わせた設備更新を検討せざるをえない。人口減少にともない物件が余る市場においては、なおさらである。これまでは、物件の継続的な価値づけについて意識する必要性に迫られてこなかった不動産オーナーも、今後は時代のニーズや将来に対する予見を考慮しながら、物件ごとに対応策を検討していく必要がある。事業性の確保のための段階的な投資、選択と集中、割り切りが必要とされる時代がおとずれたと捉えている。
アイデア
対象のマンション周辺は、同じく所有している古い瓦葺きの風呂なしアパート・空地・駐車場・駐輪場が隣接していたため、それらをつないで一体的な開発とした。アパートを長屋住宅へリノベーションして残しながら、新たな戸建住宅をマンションの向かいに計画。マンションと戸建住宅の敷地が一体となった共用の中庭をつくることにより、マンションの付加価値にもなるよう計画した。マンション棟は段階的に改修を行うこととし、合わせて屋上を充実した共用部とするためリノベーションを行った。2つの異なる建物と外部空間を共用部として一体的に計画することで、そこにしかない価値を生み出している。住民同士の緩やかなコミュニティ形成にも留意し、地域に根差した時間と共に蓄積される見えない価値の蓄積を目指した。
結果とこれから
リノベーション後の物件はにぎわいを取り戻し、結果として生まれた共用部は住人同士の交流の場となり、ゆるやかなコミュニティ形成が促されている。今後増加すると考えられる、築古物件の再投資と価値向上に一石を投じる事例として多くのメディアで取りあげられるなど、社会状況に合わせて変わるべき不動産オーナーのひとつの指針となっている。一方、課題もある。新しい提案は、当然使い手側の理解も必要になってくるだろう。自由に使える場所として開放しても使い方がイメージできなかったり、開放する範囲を住民にとどめるべきか、それとも地域に開放するべきか、安全性確保と管理の問題もある。いずれにしても、従来の考え方には納まらない投資、運営のあり方、手法を今後も模索していこうと思う。
プロジェクト情報
プロジェクト名
うめこみち、うめこみちFlat、うめこみち屋上
実施年月
2012年、2013年、2015年
担当領域
不動産運用、施設運営、企画立案
クレジット
ブルースタジオ (建築設計・企画立案)