概要
カマタ_ブリッヂは、①街に面した1階の企画、②物件価値上昇に資する賃貸サービスの開発、③それらを活かした街の価値向上に資する企画 の3つを組み合わせたプロジェクトである。自社物件のマンション一棟リノベーションを契機に、1階にものづくり特化型のシェアオフィスを配置し、合わせてデジタルファブリケーション機器*1(ShopBot等) の導入を企画。上階の住居入居者には、1階に入居するクリエイターと一緒に家具等をつくるサービスが付加される。賃貸物件としての差別化と、入居者が入れ変わるたびに物件の価値づけがなされることを企図することで、不動産賃貸業のパラダイムシフトを目指したプロジェクトである。また、クリエイターとデジタルファブリケーション機器のマッチングの可能性を建物内に限定せず、周辺地域へのサービス提供までを視野に入れたプロジェクトでもある。
*1 デジタルファブリケーション:デジタルデータをもとに創作物を製作する技術のこと。3Dプリンターやレーザーカッター等が該当する。
※ 本プロジェクトは、”マイクロディベロップメント”を定義づける以前のプロジェクトだが、こうした不動産の企画とデジタルファブリケーション機械への事業投資をかけ合わせる試みの可能性を求めたきっかけとなる事例である。
背景
一般的な改修計画によると、ある一定以上の築年数のマンションではどこまで手をかけたかによって競争力が決まる。当然、事業性を考えるとかけられる費用には限度があり、結果として特徴があるものは残りにくい。同時に、不動産の価値は地域の価値に左右される側面があり、大規模資本が投下される都心部は別として、そのほかの地域では当事者自ら地域の魅力を育てていかなければ、これからの不動産賃貸業は成り立たなくなるのではないかと危惧していた。また、街路に面する建物の1階部分は街の顔とも言える場所であり、そこでどのような活動が行われているかによって地域の個性や価値は決まる。
そうした考えから、対象物件の1階部分を中心に自ら運営に関わることを前提として、不動産企画と事業投資を掛け合わせることを視野に入れてアイデアをまとめていった。
アイデア
「入居者 × デジタルファブリケーション機械 × シェアオフィスメンバー」の組み合わせによる新しい賃貸サービス「サブロク」を企画立案。 このカマタ_ブリッヂ住居入居者向けのサービスは、入居時に1階シェアオフィスのクリエーターと一緒に一定数(サブロク=3尺x6尺=910mmx1820mmの合板1枚分を材料として使用できる)オリジナル家具をつくることができるものである。
これは不動産賃貸業として新しい収益構造を目指した試みであり、一般的な「フリーレント」や「広告費◯◯カ月」といった実質的な家賃値下げ戦略とは異なる新しい視点による戦略である。また、時間の経過と共に価値が低下する通常の不動産価値の観点とは異なり、入居者が入れ変わるたびに物件の価値が上がる可能性がある点も重要な視点と言える。住まい手と働き手がゆるやかにつながる価値感の提示や、周辺地域へのサービス提供による街と一体となった不動産の価値向上/有効活用を目指したプロジェクトでもある。
※「サブロク」はプロジェクト第一期終了をもって現在サービス休止中。
結果とこれから
本計画は、不動産賃貸業(大家)としてのパブリックマインドを持った姿勢と事業投資の視点を掛け合わせることで、不動産運用、地域の不動産の可能性が大きく広がることを示唆している。
2019年3月には、シェアオフィス・工房運営を行ってきた@カマタがShopBotを使ったオフィス向けデザインカスタム家具ブランド「DOGBONE」(TOOLBOXとの共同事業) をリリース。その後2019年4月には、カマタ_ブリッヂは施設規模・サービスを拡大し、インキュベーション施設・コワーキング施設「KOCA」の立ち上げと共に、デジタルファブリケーション機器の移設を行い第1期が終了した。 本プロジェクトは”マイクロディベロップメント”を定義づける前のプロジェクトだが、不動産企画とデジタルファブリケーション機器への事業投資を掛け合わせることの可能性を実感した、重要なきっかけとなった事例である。
プロジェクト情報
プロジェクト名
カマタ_ブリッヂ
実施年月
2015年
担当領域
不動産運用、施設運営、企画立案、マイクロディベロップメント*
クレジット
ブルースタジオ(建築設計・企画)
@カマタ(シェアオフィス・工房企画運営)
*マイクロデベロップメント定義以前の個人プロジェクトです。